「なぁんだぁ?これ…?
難しい『文字』ばっかだよ…天ちゃん…」
「おや、おや、これは珍しい物を見つけ出しましたね…悟空」
「あんぱんも、しょくぱんも、かれーぱんも、なぁんも美味そうなモン
でてこないよ…? なぁに…?これ…? つまんねぇ〜」
「う〜ん、それはですね…天界の黙示録って言って…
……まあ、簡単にいうと、みぃ〜んな死んじゃうよっていう、
怖いお話の中の一説なんですよ?」
「へぇ〜、そんなおっかない話、俺、好きじゃねぇや…」
「そうですよね…?
悟空は食べ物とか楽しい話しか興味ないですもんねぇ〜
僕もそういう物騒な話は好きじゃないですよ?
じゃ、そんなモノを見るのはやめて、たまには外へでも遊びに行きますか?」
「わぁ〜い! やったぁ〜っ!天ちゃんだぁ〜い好きっ!」
「これ、これ……悟空ったら……」
天蓬の思わぬ申し出に、悟空は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
子犬のように喜んでは、目の前にいる天ぽうに跳び付いたのだった。
自分に抱きついてくる悟空に、彼も悪い気はしなかった。
…というよりむしろ、無邪気に懐いてくれる悟空に親近感さえ抱いていた。
養父の金蝉のもとを抜け出しては、悟空はしょっちゅう天蓬の部屋へ遊びに来ていた。
その見た目の奔放さとはうらはらに、
自分の興味を抱いたモノの吸収力には目を見張るものがある。
教えられた文字をスラスラと読めるようになり、
天蓬の部屋に山積みにされている本を見るのが、
最近の悟空の楽しみになっていた。
たとえば言葉を覚えたての子供が、「何?ど〜して?」を連発するように、
ここのところの悟空は目に付いて疑問に思ったことを、ことごとく口に出す。
たとえそれが言葉にしてはいけないものだとしても、
何の遠慮も持たない彼は素直に声に出してしまう。
それを聞いた周りの大人たちが狼狽する様や、奇想天外な発想力が面白くて、
天ぽうは良く悟空を連れ歩いていた。
それが金蝉の気に触ろうと、そんなことはお構いない。
いつもポーカーフェイスを気取っている金蝉がうろたえる様も、
天蓬にとっては退屈な日常を払拭する一興に過ぎなかった。
「なぁ天ちゃん、さっきの怖いお話さぁ、何てったっけ?」
「え? ああ…翼伺伝説のことですか?」
「よくし…でんせつ…?」
「そう、翼の伝説と書いて、『よくしでんせつ』っていうんですよ…?
もともとは長いお話の一説で、別名『銀糸伝説』っても言うんですけどね?」
「ぎんし…でんせつ…?」
「そうですよ。天に飛来した銀色の翼が、もう片方の金色の翼を捜して、
色んな場所をさ迷うんです。
そして、その方翼が地上に落ちてしまったことを知ると、
地上の金翼を天井に手繰り寄せようとして、自ら銀色の糸を地上に下ろすんです…」
「ふうん…銀の糸かぁ…
まるでナタクの髪の毛みたいだなぁ〜!
きっとキラキラして、綺麗なんだろうなぁ…」
「……?!……」
頬を桜色に染め、嬉しそうに話す悟空の傍らで、天蓬は何やら訝しげな表情をしていた。
悟空とナタクがどこぞで知り合い、
いつの間にか友達として想いを寄せ合っていることは知っていた。
ナタクはどうあれ、悟空の方は彼に一方ならぬ関心を寄せている。
それが私欲にまみれた天界の大人たちの思惑に逆らい、
快く思われていないことも確かだった。
無邪気に友の姿を思い浮かべているであろう悟空を、
不憫に思いながらもそれを口に出すことは出来ない。
無言の微笑が複雑な彼の心中を表していた。
だがしばらくして、天蓬は肩までの漆黒の髪を徐に掻き揚げ、
何か思惑がありげに瞳を輝かせた。
「悟空、急に申し訳ありませんが、今日のお散歩の相手はキャンセルさせてください。
変わりに、捲簾がお相手してくれますから…」
「えっ?なんでっ?急にどうしちゃったんだよぉ〜?
まあ、ケン兄が遊んでくれんなら、いいけど…」
「急な仕事を思い出してしまったんですよ…この埋め合わせは…
そうですねぇ、肉まん5個でどうですか?」
「えっ?うん!いいっ!ゆるすっ!!」
自分という遊び相手の存在も、悟空にとっては肉まん5ケで済んでしまうこと…
どこまでも単純で欲望に素直な子供なのだろう。
「アハハ…すみませんねぇ…
捲簾ならこの先の庭にいますから、遊んでもらってください……」
軽く笑うと、天蓬うは踵を翻し、どこかへ姿を消してしまった。
「これは、もしかしたらもしかしますね…面白くなりそうです」
悟空に背を向け不敵な笑みを浮かべた彼は、自室へ戻ると後手に鍵をかけた。
彼の頭の中には、あるシナリオがもう漠然と描かれていたのだった。
そして、そのシナリオの中心人物ともいえる人物の出生の秘密が、
この伝説を紐解く鍵になるのではないかと考えていた。
「天界の黙示録…もしかすると、
まんざら御伽(おとぎ)噺(ばなし)じゃないかもしれませんね……」
この世の全てを揺るがす大きな事件が、
この後自分たちをも巻き込み嵐となることを、この時、天蓬は知る由もなかった。
《 あとがき 》
病気療養明けの第一作めがこの作品です〜( ̄▽ ̄;)
皆様、長い間お待たせいたしまして、本当に申し訳ございませんでしたm・・・(_ _ ;)m
ドリームファンの皆様には馴染の薄いものかもしれませんが、
私本来の作品の持ち味を生かした、どんより重苦しい雰囲気をフルに活用し
大好きな二人への愛を存分に表現したいと思っている私でありました・・v
本当は5月の外伝オンリーイベントに向けて、本にしようと思っていた作品です。
ですから、かなり濃厚な味を味わっていただけるかと・・・(#^^#)
あ・・・!
注意書きにもあります通り、これからはエッチもありです・・・!!
BLモノが苦手な方はくれぐれもご注意くださいませ〜〜〜m(_ _ ;)m